第1巻裏メルマガ
あれは数年前のこと。
その夜、
私は初めてキャバクラで
働くことになっていた。
街はネオンの光に包まれ、
夜風が肌を心地よく撫でる。
そんな街を背に、
ビルのエレベーターのボタンを押した。
私の心臓は早鐘のように鳴り響き、
緊張で胸が張り裂けそうだった。
(何を話せばいいんだろう…)
(笑顔で話せるかな…)
(もし盛り上がらなかったらどうしよう…)
心の中で問いかけるたび、
緊張は増していく。
ドレスには着替えた。
初めての自分のドレス姿に胸が高鳴る。
「ナナさ〜ん」
と黒服の男性が
私の名前を呼ぶ声が、
更衣室の静寂を破った。
(ヤバイ、ヤバイ…)
鏡の前で自分の顔を
最終チェックしていると、
ふと
バッグの中にしまっていた
Diorのネックレスが目に入った。
特別な日にしかつけない、
大切なネックレス。
今日は思い切って
これをつけようと
私は決意した。
ネックレスをつけると、
それはまるで
魔法のアイテムのように
胸元で輝いた。
細い鎖が首に優しく絡み、
Diorのロゴが静かに揺れる。
その瞬間、
少しだけ自信が
湧いてきた。
ホールに出ると、
「あちらのお客様について」
と黒服が私を指示した。
私は深呼吸し、
こわばった顔で
「初めまして〜」
と名刺を差し出した。
その瞬間、
彼の目がカッと
見開かれた。
「え?Diorのネックレスつけてるやん!」
「売れっ子キャバ嬢さんなんや!」
「人気キャバ嬢に席についてもらえて幸せやな〜」
「なんかシャンパン頼んでいいよ!」
彼の反応に驚いたのは私だった。
たかがDiorのネックレス、
されどDiorのネックレス。
ただDとiとoとrが刻印された
ネックレスをつけていただけなのに、
まるで魔法がかかったかのようだった。
ネックレス一つで
こんなにも違うのか。
信じられない。
でも、
これがブランドの力、
ブランディング、
見せ方なんだと実感した。
ハイブランドの
ネックレスをつけているだけで、
周りの目が変わる。
「お、Diorや!すげ!」
「なんやこの女、なんとなくやり手っぽいな」
「ワンチャンこの女めちゃ人気なんじゃね?」
「絶対人気キャバ嬢だわ、やべーラッキー」
「てか人気キャバ嬢と話してる俺、イケてね?」
これがブランディングの力だ。
「希少なものを手に入れた俺!」
という承認欲求が満たされる。
こんな感じで、
ちょっとした小手先の
テクニックを使っただけなのに、
私はキャバクラ初日から
無双モードに突入した。
人は
希少性のあるものに
価値を感じる。
人気キャバ嬢は希少な存在。
一般の客につくことは稀。
でも、
私はそれを
客に錯覚させた。
(体験入店初日なんだから人気とか、んなわけあるかい!とツッコみたくなるが)
ブランディングは即効性がある。
「見せかけの力」
で現実を塗り替える。
だからこそ、
これは劇薬。
取り扱い注意。
中身は変わっていない。
見せかけを変えただけ。
正直、5分でもできる。
これは
キャバの世界だけでなく、
ビジネスにも応用できる。
これからビジネスに
挑戦する人も使える。
ブランディングを極めれば、
どんな後発組でも一瞬で
ライバルをごぼう抜きにできる。
というか、
「あなたから買いたい」
というお客様を量産するのが
ブランディングの本当の力。
だからライバルとかいないも同然になる。
ブランドの力は、
まるで見えない手が
運命の糸を操るかのように、
一瞬で状況を一変させる。
Diorのネックレスは
ただのアクセサリーではない。
私はその力を、
あの夜に身をもって知った。
想像してほしい。見せ方1つ変えるだけで、顧客が虜になる魔力を。
想像してほしい。見せ方1つ変えるだけで、商品が飛ぶように売れていく世界を。
それがブランディングの力だ。